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「たてびシアター2025」を開催しました(2025.5.16~18)

「たてびシアター」は、別館ワークショップ室を会場とし、舞台芸術の公演を募集、審査で選ばれた団体に上演して頂くという事業です。第1回目となった今回は、「大竹直×加藤亮佑×酒巻誉洋による、それぞれのひとり芝居」が5月16日(金)~18日(日)の期間で上演されました。

出演した3人の俳優の方々は、2022年から2024年に当館で行われた、演出家・加藤真史氏プロデュースによる演劇にも登場されていたので、顔なじみの皆さんでしたが、今回は一人ずつ順に芝居をし、それぞれの個性が浮き彫りになるような公演プログラムでした。

最初は、菱沼康介さん作、加藤亮佑さん演出・出演の『壁に向かう』です。閉館と取り壊しが迫る、とある美術館で、監視員を兼務する学芸員のお話です。途中で館長に扮したり、ポンポンの作品を絡めて笑いを誘ったりしながら、場面はいつしか狂気の気配を帯びた美術館愛の叫びへと変貌します。「目の前にあるものと見えるものは違う」という普遍的なテーマにも触れ、表現の幅の広さと力強さに驚かされるお芝居でした。

二つ目は、大竹直さん作・演出・出演の『春に鳴く鳥』。老人ホームに暮らす、ある老婦人が、ホームのスタッフや電話先の娘を相手に、好きなご飯のこと、おやつのこと、孫のことを何度も繰り返して話します。大竹さんが繰り出す楽しいセリフの向こうには、一瞬一瞬の気持ちを素直に表しながらも現実を受け入れる愛らしい人の姿が見え、最後、窓の外に耳を傾けるよう誘う瞬間まで、観客を引き込むお芝居でした。

最後は、酒巻誉洋さん作・演出・出演の『fool for the country』です。朝起きると、どこに行く予定だったか、何をしなければならなかったのか分からなくなり、パニックに陥る人。自問自答は、自らの鏡像相手にも続けられ、ときどき蘇る記憶の片鱗を通して自らの存在を認めようとします。ワイシャツとスラックスに裸足で歩き回る印象深い姿は、社会一般の通念といったものから抜け出して彷徨う「心」を表しているようでした。

会場は、椅子が一つ、窓は中央の1か所だけを開けるという、シンプルな空間づくりでしたが、重厚な別館の石壁や、緑の木々がちらりと見え、開ければ外に出られるガラスの扉を活かした3人の演出によって、別館の建築と空間の可能性が引き出された公演となりました。

5月17日は、3人の公演後、美術館とのコラボレーション企画として、開催中の「鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展」で展示中の雑誌の記事を朗読する「アフターリーディング」を行いました。

読んで頂いたのは、雑誌『ヴュ』(1933年9月13日)に掲載された、ユダヤ人物理学者アインシュタインのインタビュー記事です。ナチス・ドイツに追われる身にも関わらず、アインシュタインは避難先で静かに研究と音楽を楽しむ生活を送っていることに記者が感銘を受けるという内容です。

アインシュタインを大竹さん、記者を酒巻さん、エピソードの背景を描写するナレーションを加藤さんが務めて下さいました。残念ながら機材の故障でイメージなしのリーディングとなりましたが、俳優の方々は臨場感と聴き応えのある朗読をして下さいました。

 

今回の公演を実現された大竹直さん、加藤亮佑さん、酒巻誉洋さん、ご協力を頂いた関係の方々、当事業に関心を持ち、ご来場くださった皆さま、ありがとうございました。改善しながら第2回へつなげていきたいと思いますので、引き続き皆さまの応援をお願いいたします。

次回の募集は9月頃を予定しています。

(写真提供:加藤真史氏)*アフターリーディング記録を除く

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